低容量ピルの副作用「血栓症」の原因や発症確率は?初期症状や予防法も解説

低用量ピルの副作用にある「血栓症」に不安を感じて服用をためらっている方は多いでしょう。ここでは、「血栓症」とはどんな病気か、その初期症状や予防法について詳しく解説します。

また、ピル服用で血栓症のリスクが高い人や血栓症発症の確率についてまとめました。

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低用量ピルの副作用「血栓症」とはどんな病気?

低用量ピルの副作用「血栓症」とは、様々な原因で血管の中に血の塊(血栓)ができて、それが原因で血管がつまってしまう病気です。

体の中には多数の血管が走っていますが、血栓がつまって血が届かなくなった体の内臓や組織は、壊れたり正常な機能が失われてしまいます。体のどこの血管に血栓ができて、どこにつまるかによって様々な症状と病気を引き起こします。

血栓症の原因は血液や血管、血液の異常で、病気や生活習慣などによって引き起こされます。血栓症は動脈血栓症静脈血栓症があり、動脈血栓症の主な病気は心筋梗塞や脳梗塞、静脈血栓症には深部静脈血栓症があり、それが足から流れて肺の血管が詰まるとエコノミークラス症候群として知られている肺塞栓症を引き起こすことがあります。

低用量ピルの副作用で血栓症発症リスクが高まる理由

低用量ピルの副作用で血栓発症のリスクが高まる理由は、低用量ピルに配合されている卵胞ホルモンの合成物エチニルエストラジオールの影響で血がかたまりやすくなるからです。

低用量ピルは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの配合薬で、その中の卵胞ホルモンであるエストロゲンを服用すると、消化管から吸収されて肝臓に取り込まれます。そして主に肝臓で作られる体の中で出血した際に血を固め、止血する作用のあるタンパク質の働きが上昇します。

逆に、血の塊を溶かして血液が固まるのを阻害する作用を持つタンパク質の働きを低下させるので、血液が凝固しやすい状態を作り出します。

低用量ピルに配合されているエチニルエストラジオールの含有量と血栓症のリスクは比例して量が多ければそれだけ血栓症発症のリスクは高くなります。安全面から近年では、低用量ピル、超低用量ピルの使用が主流となっています。

低容量ピルの服用で血栓症が発症する確率

対象者10,000人あたりの発症数(年間)
低用量ピル非服用者1〜5人
低用量ピル服用者3〜9人
妊婦5〜20人
産後12週間40〜65人

参考資料:https://www.jsog.or.jp/news/pdf/CQ30-31.pdf

生殖可能年齢にある女性でピルを服用していない人に比べて、ピルを服用している同年齢の女性の血栓症が発症する率は2倍になります。なので、ピルを飲んでいない人に比べればやはり確率が高くなっています。

しかし、妊婦の方がピル服用者よりも血栓発症率は高いです。さらに産後12週間の褥婦はピル服用者に比べて7〜13倍も高いという結果になっているので、ピル服用者の血栓症発症する確率よりも周産期の女性が血栓症を発症する確率が高いと報告されています。

低用量ピルの服用で血栓症が発症する確率は、それほど高くないということがわかります。

血栓症の発症リスクが高い人の特徴

血栓症の発症リスクが高い人の特徴
  • 高年齢(40歳以上)
  • 肥満(BMI30以上)
  • 喫煙者
  • 高血圧
  • 糖尿病
  • 片頭痛もち
  • 活性化プロテインC抵抗症(先天性血栓性素因)
  • 抗リン脂質抗体症候群などの脂質異常症
  • 悪性腫瘍
  • 血栓症になったことがある、または家族で発症した人がいる人
  • クローン病、潰瘍性大腸炎
  • デスクワーク、長距離出張や旅行などの移動が多い人
  • 妊娠高血圧症候群にかかったことのある人
  • 大きな手術の前後
  • 下肢に麻痺がある
  • 足のギプス固定中

低用量ピルの副作用「血栓症」の発症リスクが高い人の特徴を詳しく説明します。

加齢と共に血栓症発症のリスクは高くなります。低用量ピルを服用した15〜19歳女性の血栓症のリスクに比べると、20〜24歳では1.32倍、25〜29歳では1.99倍、30〜34歳では2.91倍、35〜39歳は4.01倍、40〜44歳で5.29倍、45〜49歳で6.58倍の発症率になります。加齢と共に血栓症のリスクが急速に上がり、35歳を超えるとリスクがかなり高くなります。

肥満は血栓症の発症リスクと大きく関係します。BMI数値が高くなるほどリスクが増えますが、肥満の人が低用量ピルを服用するとさらにリスクが高くなります。低用量ピルを服用している人のBMIが20〜24.9の人と比べると、BMI20以下の人のリスクはほぼ変わりません。しかし、BMI25〜29.9の人のリスクは2.4倍、BMI30以上で5.5倍も高くなります。

喫煙歴も血栓症発症のリスクに大きく関係があります。これまで喫煙したことがない人の血栓症発症のリスクと比べると、喫煙したことがあるけれど現在は喫煙していない人のリスクは1.63倍、現在喫煙している人は2.03倍まで上がります。さらに1日15本以上喫煙する人の血栓症リスクは最大になり、35歳で喫煙者は低用量ピルの服用は危険です。

日常的に仕事などで飛行機や車などの長時間移動をする人も血栓症のリスクが高いです。デスクワークなども同様です。

炎症性腸疾患のクローン病や潰瘍性大腸炎の人も血栓症発症のリスクが約3倍という調査結果が出ています。そのほかの脂質異常や高血圧、糖尿病、悪性腫瘍(がん)なども血栓症のリスクが高くなります。このように血栓症のリスクが高い人は、ピルを処方してもらえない場合があります。

血栓症の初期症状

血栓症の初期症状
A強い腹痛
C強い胸痛、息苦しい、押し潰されるような痛み
H強い頭痛
E見えにくいところがある、視野が狭くなる、舌がもつれて話しにくい、失神、けいれんなどの意識障害
Sふくらはぎの痛み、むくみ、しびれ、熱感増加や皮膚発赤

血栓症の初期症状は血栓ができた場所によって様々な症状が現れます。血栓症が発症した時の症状を頭文字をとってACHESと言います。

上から順に説明しますと、激しい腹痛(abdominal pain)の場合は、下大静脈など腹部に血栓症が疑われます。激しい胸の痛み(Chest pain)押し潰されるような痛みと同時に息苦しいと感じる場合は、肺塞栓が疑われます。

頭痛(Headacke)視野障害(Eye problems)、言語障害、意識障害などの症状がある場合は、脳の静脈、動脈の血栓症が疑われます。そのため、血栓ができた脳の部位によってこのように様々な症状が現れることがあります。

ふくらはぎの痛み(Severe leg pain)やむくみ、腫れ、しびれ、握ると痛い、皮膚が赤くなってるという症状がある場合は、下肢の深部静脈血栓が疑われます。また上記の他の症状の初期症状で一緒にふくらはぎの痛みなどの症状がみられることがあります。

血栓症が疑われるとき、早期発見早期治療が重要です。上記の症状を自覚した時はもし違ったら恥ずかしいからなどと様子をみずに、ためらわずにすぐ病院に相談してください。ピルを処方してもらった病院が時間外や休診の場合、他の病院に相談しましょう。

血栓症の予防方法

血栓症の予防方法
  • 1日30分以上軽く無理ない程度で運動する
  • 長時間の同じ姿勢を避けて、2〜3時間毎に動いたり、足首・膝の曲げ伸ばしや、ふくらはぎのマッサージを行う
  • 水分を十分に摂取する(アルコール以外)
  • バランスの良い食事を心がけ、大豆製品や発酵食品を積極的に摂る

血栓症の予防には運動、食事、生活習慣に気をつけ、血液と血管、血流を正常に保つことが大切です。

運動は血流を促し、血管の中で血栓が作られにくくなり、さらに内臓脂肪を減らしてくれて血液を正常に保つ働きがあります。体操、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、などのご自分に合った有酸素運動を無理ない程度で1日30分以上を毎日続けることで血栓症の予防につながります。

30分間連続で運動する必要はありません。1日に2〜3回に分けて運動しても同じ効果が得られます。疲れている時や時間がなくていつもの運動ができないというときは、無理せず数分体操をしたりストレッチなどで体を動かすというように適宜調整して毎日継続することが大切です。

長時間同じ姿勢でいると血流が悪くなり血栓ができやすくなります。具体的には飛行機や車、新幹線、バスなどで長時間同じ姿勢で移動する場合です。日常でもデスクワークなどで日中ずっと同じ姿勢で過ごす場合でも同じように血栓が起こりやすい状態になります。

可能な限り長時間同じ姿勢でいることを避けることが望ましいですが、同じ姿勢が続く場合は少なくとも2〜3時間毎に足首や膝の曲げ伸ばしなどのストレッチ、ふくらはぎのマッサージなどを積極的に行いましょう。ふくらはぎの筋肉を伸ばしたり縮めたりすることで足の血行改善になり、血栓症を予防できます。サイズの合った正しい方法での弾性ストッキングの着用も血流の停滞を防ぐので効果的です。

また、脱水でも血栓ができやすくなりますので、水分を十分な量をこまめにとり、バランスの良い食事を心がけます。大豆製品や発酵食品には血栓を予防する作用があります。日々の食事に積極的に取り入れて血栓症を予防しましょう。

ピルの副作用「血栓症」に関するよくある質問

 

低用量ピルの副作用の血栓症で死亡するって本当?

低用量ピルの副作用の血栓症で死亡する可能性はゼロではありません。実際に日本でも低用量ピルの因果関係が否定できない血栓症発症の事例が報告されており、厚生労働省でも注意喚起を促しています。

副作用で死亡と聞くと不安になりますが、低用量ピルの服用で辛い症状が改善されたりといいこともあります。ピルの血栓症の副作用出現率は妊婦よりも低いので、決して高いわけではありません。どんな薬にも副作用があり、重要なことは定期的に診察や必要ならば検査を受けることです。早期発見につながります。血栓症の初期症状を自覚したら、即ピルの服用を中止し、直ちに病院を受診することで重症化を防ぐことができます。

血栓症リスクが高い人も服用できるピルはある?

上記にあるように血栓症のリスクが高い人は、医師の判断で低用量ピルの服用ができない場合があります。その場合、避妊や月経困難症の治療のために服用できる可能性があるピルは「ミニピル」です。

ミニピルはプロゲストーゲンという黄体ホルモン製剤単剤のピルです。そのため、血栓症のリスクが上がらないので、血栓症のリスクが高い人でも比較的安全に服用できます。ただし、ミニピルにも副作用はあるので、医師とよく相談しましょう。

 

低用量ピルの副作用である血栓症はどのくらいでなる?
低用量ピルの服用で血栓症が起きやすい時期は、ピルの服用開始から3ヶ月以内が多いと言われています。継続して服用する場合、期間が長くなるにつれて血栓症を発症する率が減少していきます。
ピル服用期間10,000人あたりの発症数(年間)
開始~3ヶ月14.3人
2年目7.3人
3年目6.3人
4~5年目4.5人

ただし、開始3日後から血栓症を疑う症状が出る人もいますし、服用開始1年後に発症する人もいます。そのため3ヶ月を超えてからも血栓症の初期症状に気をつけて予防しながら生活することが重要です。

また、一度中断し、4習慣以上の休薬期間を置いてから、ピル服用再開すると最初と同じように再開から3ヶ月以内に血栓症が起こりやすくなります。

ピル服用中の血栓症の検査は何科にかかればいい?

血栓症の検査は、血栓症を疑う症状がなければピルを処方してもらった婦人科に相談しましょう。ただし、個人病院など病院の規模によっては検査設備がない施設や、採血検査もすぐ結果がでないところもありますので、血栓症が疑われる症状を自覚して病院にかかる場合は、血管外科や循環器内科、婦人科などの専門医のいる総合病院にかかることをおすすめします。

夜間や休日の場合でも救急対応可能な病院に問い合わせて受診を相談しましょう。その際、詳しい症状とピルを服用していて血栓症のリスクがあると説明を受けている旨を必ず伝えてください。

ふくらはぎの痛みなど足の症状を自覚した時、整形外科を受診する人がいますが、ピル服用中で突然原因不明のふくらはぎや足の症状が出た時は、婦人科か循環器内科、血管外科、頭痛などの症状がある場合は脳神経外科を受診してください。症状が強い場合は、ためらわずに救急車を呼びましょう。ご家族や身近な人と情報を共有して万が一血栓症の症状を自覚した時のために備えておくことが大切です。

ピルを処方してもらう際に、血栓症の検査はどうするか、または血栓症の症状がでた場合、どこに受診するか相談して決めておくと安心です。また、血栓症の検査で他の病院に受診する場合、低用量ピル服用中だとわからないと診察で血栓症を疑うことが難しくなります。ピルの(服用者)携帯カードとお薬手帳を必ず持参して診察時に提示しましょう。

新型コロナウイルスに感染してもピルを服用してもいい?

新型コロナウイルス(COVID-19)に感染した場合、2020年に日本産婦人科学会が発表した指標は、無症状、軽症の場合でも低用量ピルの服用を中止したほうがいいということでした。これは新型コロナウイルス感染で血栓症のリスクがさらに高くなる危険性が疑われたためです。

しかし、2022年10月に同学会が出した新型コロナウイルス感染時の低用量ピルの服用について変更になっています。

新型コロナウイルス重症度対応
無症状から軽症者低用量ピル服用継続して良い
中症から重症者低用量ピルは中止する

参考資料:日本産婦人科学会​​: 新型コロナウイルス感染症とOC・LEP、HRTに関する考え方

新型コロナウイルスによる血栓症のリスクは高くないと様々な研究から分析された結果が出たことと、低用量ピルがコロナ感染時に血栓症を増加させるという結果が出ていないことが考え方の基本になっています。ただ、2023年5月時点では明確な科学的研究がないため、あくまでも専門家の意見に基づく考え方なので急に変わる可能性があります。低用量ピルを服用中にコロナウイルスに感染した場合は、専門医に相談しましょう。

まとめ

低用量ピルの副作用にある「血栓症」の原因は、低用量ピルに配合されている卵胞ホルモンの影響で血栓が作られやすくなるためです。ピルを服用していない人に比べてピルを服用している人の血栓発症の確率は高くなりますが、妊婦、産後12週間の女性に比べるとそれほど高くありません。きちんと血栓症のリスクと予防法、初期症状を自覚した時の対処法などを理解していれば安心です。

ピル服用にあたり、血栓症がやはり怖くて不安を感じる場合は、まず専門医に相談して十分に説明を聞いて判断しましょう。